| 『山吹』の理想の跡取りは、腕のいい料理人。 しかしその才能がないのは、何より本人が、 子どもの頃から気づいていたことでした。 ともすれば小さく育ちそうなヤマちゃんに、 佐倉父は味覚の才を発見します。 嘆く大女将に希望を持たせ、 総領息子に江戸前の男の気風を教えたのも、 この街で生まれ、この街に生きた、 イタリアンカフェのバリスタ、佐倉父でした。 極楽とんぼでいながら、 花板の新作にしっかりとした味見をするのが、 今の『山吹』の主人なのです。 そういう夫をやっぱり頼もしく思っている妻。 そんなこと、口が裂けても言わないけど、 味噌を掬い取って舐めた時、 この人の幸せな顔、今、見たい… しゃんと張った女将の気が、ふっと緩みます。 |