Yseult 1901 (age48)

Yseult=イズー と読みます。

日本ではイゾルデと言った方がわかりますよね、ワグナーのオペラで有名な、『トリスタンとイゾルデ』のヒロイン。
イゾルデはドイツ語読みかな?
英国が誇る心の故郷『アーサー王伝説』中のエピソードの一つで、人々を魅了してやまない世紀の悲恋物語です。

トリスタンは、アーサー王の円卓の騎士の一人で、3本の指に数えられる剣豪なのですが、
伯父のお后であるイゾルデと、道ならぬ恋に落ちてしまいます。
そのきっかけとなったのが、媚薬・・・。

ワグナー版では、イゾルデがトリスタンに無理心中を仕掛け、二人で呷った死の薬が、
実は、侍女によって擦り返られた愛の妙薬だったという展開。
もっと古い伝説では、単に飲み物を求めた二人に、小間使いが間違って媚薬を渡してしまったという展開。
いずれにしても、媚薬はこの物語の重要なアイテムになっていて、
二人は、嫌がおうにも燃え盛る灼熱の恋の虜となって、激動の運命に身をさらしていく事になります。

この絵は、夜の訪れを心待ちにしているイズーの姿でしょう。
闇に乗じて、トリスタンが忍んで来る手はずになっているのです。
だから、イズーの心は上の空・・・
葡萄色に輝く暮色のパノラマもまるで目に入らず、ひたすらジリジリと漆黒の闇を待っている。

媚薬によって結ばれた恋が行きつく先は、死の世界です。
刹那ではなく、永遠に終らない真実の恋は、死によってしか完成される事はないのです。。。
いつか訪れるそこに向かって、躊躇なく進んでいく二人。

これがイゾルデだと見破る方は少なかったかもしれませんが、
媚薬の定義が、甘い世界観とは異なるのが気になって、今回は使いませんでした。

媚薬は誰もが抱き持っている“無垢の魂”を呼び覚ますもの-----あたしが目指したのはこの通り間逆ですからネ。

でも、この絵は本当に神秘的。
じっと見ていると、黄昏に染まる荒野を渡っていく風の温もりや、
音なき音が支配する古えの時間が、肌に浸み入ってくるようです。

イズーの憑かれたようなまなざし。
伸ばした腕の表情。
いつからここにいたのでしょう。
あたしにはくちびるが少し開いて見える・・・イズーは吐息ばかり漏らしているから。

この絵の中ではいつまでも、愛人を待ち続けていられるイズー。

ディクシー卿はやっぱり、一番幸せな時間の中に、この人を置くことを選んだんだ。

そう、卿が描きたかった世界は、至福の時間。
未来への高揚が、過去を切り捨てる瞬間。
そのあたたかさが、あたしを惹きつけてやまないのかもしれません。