In the
room
3月24日(木)
甘い生活が終った。
甘くて苦い、ドルチェでアマーロな日々だった。
本気に隙は、ひとつもない日々だった。
今はまだ、心の揺れが収まらなくて、色々な事を、
きちんと言葉にすることができない。
いろんな人がいる。
いろんな想いがある。
それがいとしく、それがせつなく、
まだ終わりの見えない、もどかしい旅の途中のようで…
でも、この苦しさはあまりにも甘美。
目眩のような惑乱に彩られながら、ため息とともに目を閉じてしまう。
あの恋は本物だったろうか…。
すべてがまぼろしだったようで、足元を確かめたくてもそれが出来ない。
あの生は本物だったろうか…。
確かにそこにあった息吹は、もう記憶の中にしか存在しない。
それも、徐々にうっすらと消えていくのだろうか。
出逢わなければよかったと思う。
出逢ってよかったと思う。
そこに生きた人々。
そこに燃えていた命の火。
うつくしかったと思える。
それだけでいいのかもしれない。
残るものは何なのかな。
媚薬。。。
千年の恋は、確かにあったみたい。
だって今、これほどの懊悩の中にいること自体、
媚薬の魔力にやられたとしか思えない。
人が恋しい。
ひとりが苦しい。
時間の砂が砂漠のように広がった時に、
なにか、ひそやかな花のようなものが、
残っていればいい。
役者でいることがこれほど辛い日々はなかった。
人の人生を活きる。
こんなに愛した雪子なのに、
彼女をちゃんと活かしてやれなかった悔恨に責められる。
本当に本当に、あたしは雪子が好きだ。
もっといじらしい女にしてやりたかったよ。
ごめんね。
鳴呼、終れない。。。
そこにいるすべての人たちを愛し、
たぶんすべての人から愛してもらった。
だからこそ、まだ終れないんだよね。
世界樹なんかに行っちゃったからなぁ、遠い、広すぎる、届かない。
永遠に失恋しちゃったかな。
ああ、もう一度生きたい。
世迷言。。。愚かな繰り言、だけど、
だけどね。。。
知念さんに会いたいな。
この世界の神だった人。
お顔を見たらそれだけで、何か答えがもらえるかもしれない。
今日はダメだね。
想いは鋭く深くなるだけで、まだ先に進めない。
身体に残った痛みだけが、この日々を証している。
この骨に染み付いた痛さが、腹立たしい安らぎをくれる。
なんという自虐愛。。。愚か者め。

3月4日(金)
後半稽古開始から、10日以上が過ぎた。
那珂村タカコちゃんと永松寛隆クンも参加となり、
フルメンバーでの本格的な稽古が進んでいる。
この3週間は、台本の直しで、実に2日に1回は徹夜という日々。
でも、エンドルフィンが上昇しているのか、
そのまま稽古場に行っても全然眠くなる事はない。
むしろ、気持ちは高ぶる一方で、寝食が邪魔になって来ている。
後が怖いわ。。。
ホンが大幅に変わった。
知念さんによって構成がガラッと変えられ、
やっと芝居の台本らしくなれた。
1年掛けて渾身リキ入れて生んだセリフが、バサバサと切り落とされていくのに、
なぜか悲しい気持ちにはならない。
知念さんの構想に納得がいくから、
そして何より、知念さんへの敬愛と信頼があるからなのだと思う。
女のあたしの描いた世界を、大人の男の知念さんが、
ガコガコッと換骨奪胎、細かな形成手術をあたしがし直して、
やっと今日になって新しいホンと呼べる形になり、
通し稽古をしてみた。
心情が急展開して、よりドラマチックになっている。
それだけに、少しでも芝居に隙を作ってしまうと、
いきなり絵空事に落ちる。
役者の作業はこれからが正念場。
でも、ここ数日で、確実にみんなのモードも変わって来ている。
「セクシーな芝居にしようね」
これが甘い仲間たちの信条。
日々エロス対決?が、濃厚になって、
生きるという事の、より美しいエロティシズムを求めて、
稽古場の密度がどんどん上がっている。
いい稽古場だと思う。
執筆から離れる事ができたので、
あたしもやっと演じ手のスイッチが入ってきた。
しかし、
苦しい。。。
あたしにとっては、マジで血管切れそうなここ数日。
雪子の苦しみに支配されて、
稽古場でも家でも、胸が押しつぶされそうで、泣いてばかりいる。
もう少ししたら落ち着いて来ると思うけど、
自分で書いたクセに、メゲそうになって困る。
愚か者メが。
心情でやる芝居。
そこに「生きる」という事。
二階堂さんはその辺りに天才的な感覚を持った人なので、
本当に共演しがいのある俳優さん。
役者として、嘘のない時間を過ごす快感をいつも与えてもらえる。
だけど、それだけに、白金先生の気持ちの揺れが、
手に取るように伝わってくるので、それがあたしを苦しめる。
先生と雪子は奇跡の愛に到達しなければならないのに、
そんなところで滞っている場合じゃないのに、
女優としての力の無さを、演るごとに痛感させられる。
今の苦しみを、そのまま雪子の体験として、
昇華させ、散華させ、大きな高みに上りつめたい。

2月14日(月)
前半稽古最終日。
1日からポツポツという感じで7回の稽古をしてきたが、
明日から1週間のオフ。
明けるといよいよ連日稽古に入って行く。
ここまでは、皆さんの他の舞台出演を優先して頂いた為、
稽古できるところも限られていたけれど、
それでもみんなだんだん甘いワールドに染まり始め、
今日の稽古では、キャラクターがだいぶ明確に見えて来た。
年代も、バックボーンも違う13人だから、
当たり前のことながら、それぞれに芝居のスタイルも違う。
ナマなナチュラルを求めるタイプと、
きちんと見せる事から離れないタイプと。
どちらも大事。
どちらもなくてはならない。
この先、どういう風に芝居が揃っていくのか、
それが一番楽しみだったりしている。
正直、場が停滞し、作り手のモチベーションが、
ともすれば上がれないままの時間もある。
そこに不安や苛立ちを感じている人もいると思う。
でも、すべては後半稽古開始の21日から始まる。
21日からね、と、知念さんも何度も仰っている。
大きな視野のもと、長いスパンで全体を見通して下さっているのを感じる。
それが心強く、かつ心地よいプレッシャーでもある。
そんな中で、二階堂さんから大きな宿題を預かる。
ご自身がワークショップを主宰されているぐらいの人だから、
台本をジックリ読んで、物語の破綻や矛盾を指摘して下さった。
今やっているホンは18稿目なので、
実はもうあたしの中では、かなりワケが分からなくなっている部分も多い。
説明ゼリフを恐れるがあまり、カットしすぎていたり、
逆に不必要に一つの方向にこだわり過ぎていたり。。。
作品を良くしようとして下さっている二階堂さんの、
静かな情熱がありがたかった。
1週間のオフと言っても、
あたし自身は名古屋での本番がある為、
そんなに余裕のある日程ではない。
予約が始まるし、制作的にもまた新たな旅に踏み出すワケで、
どこまで台本の改訂ができるか。
物語の構造を、もう一度洗い直して、
21日には改稿台本をお渡ししなければ。
でも、今はまだ方向性がクリアに見えて来ない。。。
ほんとに、頭ワルすぎる。
今日はバレンタインデーでもありました。
九里美保ちゃんのお見立てで、
男性陣に愛の贈り物。
炎のチョコ。。。
知念さんとジョニーはさっそく食してました。
気に入ってもらえたみたいでヨカッタヨカッタ。
二階堂さんはお持ち帰り。
今日、いくつ目のチョコなんだろ?
磯見さんには、もう一つ、もち子さんからスペシャルチョコが。
ヴェネツィアン・レッドの美しい容器に入ったイタリアのチョッコラータ。
さすが、大人の女はやることが違う。。。
ヤス君は、チョコよりも松井裕子ちゃんが差し入れてくれた、
まい泉のミニハンバーガーに釘付けだったみたい。
「肉系食べるの久しぶり…」
もちろん、余ったバーガーは全部あげました。はい。
帰り道、橋までの数十メートルを二階堂さんと歩いた。
あたしにとって、二階堂さんは掴みづらいひと。
会話もポツポツとしか出てこない。
でも、稽古の中で、
白金先生と雪子の気持ちの高まりをぶつけ合っていく内に、
演じ手の二階堂さん自身の魂のようなものを、
肌で感じられる事が多くなってきた。
あ、こういう人なんだ…。
たぶん、二階堂さんの中にも同じ感覚が生まれて来ている気がする。
役者の醍醐味って、ここにある。
だから、今のこの不器用な距離が怖くない。
…生々流転は分かっているけれど。

2月9日(水)
昨日、オープニングのダンスシーンの振り付けがあった。
踊るのは、ヤスこと林泰弘クンと、ゆかぞう今泉由香チャン。
知念さんは、名うての振り付け家でもいらっしゃるので、
それは美しいアダージオが出来上がった。
バロック、というか、ルネッサンスというか、
うーん、実に華麗で繊細、そして清純なエロチシズム漂う、
クラシカルなパ・ドゥ・ドゥ。。。すてき。
完璧にあがったシーンが出てくると、芝居の稽古にも弾みがつきます。
みんなそれぞれに触発されて、
こんなキレイなオープニングなら頑張るゾ、
と思って下さったのではないかと。。。
嬉しくてワクワクしてきちゃう。
それにしても、数あるミュージカルの大舞台に出演し、
センス抜群のゆかぞうの踊りは完璧なプロフェッショナルの技。
ため息ものの麗しさだけど、
そのロマンチックな世界から一歩も引く事なく、
照れずに踊りきるヤスくんの姿勢にも感動。
若さに似合わぬその落ち着きは何?
振りもすぐ覚えちゃったし。
彼は少林寺を10年やって来た人なのだそう。。。
身体を使う事に慣れている人は、ダンス自体の経験が浅くても、
すぐに正しく反応できると、知念さんが仰っていらした。
そこへ持ってきて、
色悪的ムード漂うあのマスクですから、ええ。
ゆかぞうの小悪魔風なチャーミングさと相まって、
かなり気になる二人として、
芝居にいいアクセントをつけてくれるのを確信した。
良かったぁ、このキャスティングにして。。。うるうる。
それに引き換えあたしってば。
今日、あたしも踊りというよりは動きを、付けて頂いたのだが、
ぜんっぜん覚えられない!
知念さんにしたら、なんでこんなぐらいで?という感じなんだろうな。
美しいアダージオの直後に来るだけに、
あ、焦るゼ。
でも、しあわせ。
間近で見る、知念さんの踊り。
タイトでチャーミングで、どことなく淋しげで、
胸がキュンとなってくる。
知念さんに、自分の踊りを付けてもらえるなんて。。。
ほ〜っ。。。信じられない。
まだ全然できないけど、動いてるとどんどん楽しくなってきて、
のっけからモチベーション最高潮のまま、自分の芝居に入れるのが嬉しい。
これから毎日練習ダ。
踊れないあたしを見越して、
ゆかぞうにコーチで付いてもらうようにして下さったので、
彼女の元気をいっぱい盗ませてもらって、頑張る。うん。

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