おまんが夢中になっているのは、
源五兵衛という男。
歳は二十六。
大きな両替商の息子でしたが、
派手な長脇差しの武家姿をした伊達者で、
憎らしいぐらいに、水も滴るいい男ぶりです。
おまんは、その男盛りの姿にすっかりおか惚れして、
去年の春から、ずーっと恋文を送り続けているのですが、
まったく返事ももらえません。
悔しいやら、切ないやらで、
そうなるとますます恋心は募っていきます。
今日もまた、とんでもない仮病を使って、
日がな一日、源五兵衛を思い続けているおまんです。
源五兵衛が、おまんを袖にし続けるのには、
ワケがありました。
彼は、男にしか興味のない、衆道の人だったのです。
衆道、男色と言えば、
崇高な男の美学、神聖な男だけのエデンの園。
そこには、男女の色恋などより、よっぽど清らかな、
優雅で高潔なホントの恋があるのです。
源五兵衛は、衆道界のカリスマ、スーパースターです。
おまんも、手強い相手を好きになったもんです。
源五兵衛の恋人は、八十郎という可憐な若衆です。
一重桜の初咲きが半ば開いて、その花がものを言うような風情の、
娘よりも清純な美少年です。
この八十郎に、源五兵衛は、突然死なれてしまいます。
春雨の晩に、源五兵衛の腕の中で、ポックリ逝ってしまったのです。
源五兵衛は深く嘆きました。
もう生きてはおれないこの身だが、
三年、八十郎を弔って、三年後の今日、この墓の前で後を追おう、
と、出家しました。
夏の間中、花を供え、香を絶やさず過ごして、秋の気配が漂い出す頃、
源五兵衛は高野山へ参ることにしました。
ある村はずれまで差し掛かった時、一人の少年がいました。
取り餅の付いた竿で鳥を狙っているのですが、
うまく行かずに悔しがっている風情が、なんとも優雅です。
八十郎より美しい!
すっかり一目惚れしてしまった源五兵衛は、
いい調子で、山のように鳥を捕ってやります。
感激した少年に誘われるまま、森の中の館に泊めてもらうと、
二人は契りを結びました。
「お帰りには、きっとまた逢いに来て下さいね。」
少年と泣く泣く別れて、ようよう高野山に着いたものの、
源五兵衛は一日で山を下り、まっしぐらに少年の家へ向かいました。
ところが、なんと、
この少年も、もはやこの世の人ではなくなっていたのです。
愛する者と、二人までも死に別れるなんて、
もおイヤ。
深く傷ついた源五兵衛は、今度こそ、深いお山に隠ってしまいました。
そんな源五兵衛の噂が耳に入ったおまんは、がく然です。
いつか必ず、女の私に振り向かせてやろうと楽しみにしていたのに、
なんてことー?!
私は負けない。
おまんは決心します。